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私たちの研究室では、何を目指しているか

1. 地上観測-衛星リモセン-モデルの融合で、グローバルな光合成を追え!!

 太陽光誘発クロロフィル蛍光による生態系光合成の観測とモデル化

 森林や草原などの生態系は光合成により、温室効果ガスであるCO2を大気から吸収しており、生態系光合成量を正確に把握することは、将来の地球の気候変化を予測する上で非常に重要である。その広域的な量を押さえるためには、衛星データを利用することが一般的であるが、従来の植生指標(NDVI、EVIなど)は葉の緑色を反映するのみであり、常緑林の冬期や、干ばつなどで一時的にストレスを受けている生態系の光合成量を推定することには向いていない。

 光合成は太陽光を利用するが、利用されなかった光エネルギーの一部は、クロロフィル(葉緑素)蛍光として放出される(太陽光誘発クロロフィル蛍光:Solar-Induced Fluorescence, SIF)。これまで、SIFは、個葉などの小さいスケールでのストレス診断に用いられるのみであったが、最近、生態系レベルの大きなスケールで、光合成速度(総一次生産量)との相関が大変高いことがわかってきており(Frankenberg et al., 2011; Zarco-Tejada et al., 2013, AFMなど)、SIFを生態系CO2吸収量の推定に生かすことが非常に期待されている。一方で、地上観測データによる検証は、ほとんど進んでいないため、利用可能性が狭められている。

 そこで私たちは様々な方の協力の元で、日本の植物季節観測ネットワーク(Phenological Eyes Network: PEN)による分光放射データを利用し、異なる生態系タイプの5カ所のサイト(水田:真瀬、草原:筑波大アイソトープ研圃場、落葉広葉林:高山TKY、常緑針葉林:高山TKC、落葉針葉林:富士北麓)において、760nm付近のO2-A吸収帯のSIFをFraunhofer Line Depth (FLD)法にて算出し総一次生産(GPP)と強い正の相関があることがわかっている(例えば、真瀬水田; 一番目の図)。また、高山サイトには定期的に通ってフラックスタワーを登り降りしながら個葉の光合成や蛍光パラメータを観測している。さらに、放射伝達モデルとの組み合わせを前提として、個葉のSIF・光合成を再現するプロセスモデルFLiES-SIFの開発もJAMSTECと共同で始めている。

これまで取り組んでいる課題

・地上観測 (水田(つくば)、落葉広葉林(高山)、照葉林(沖縄)、湿地(美唄)、コムギ畑(札幌))

・三次元放射伝達・光合成モデル開発(FLiES-SIF: Sakai, Kobayashi, Kato, 2020, GMD)

・衛星GOSAT2との比較による不確実性の検証

2. 世界で最も洗練された個体群動態モデルで、地球の未来を見通せ!!

 動的全球植生モデルSEIB-DGVMによる炭素循環・植生分布・森林動態のシミュレーション

 気候変動は地球の平均気温の上昇だけでなく、干ばつ・洪水などの極端気象現象の増加をもたらすと考えられている(IPCC, 2007)。そのような環境では、既存の生態系構成種の生長を妨げ、新規参入種を増やすかも知れない。一方で、そのような植生分布の変化は、熱・水循環に関わる地表反射率・蒸発量などの物理的変化や、炭素循環に関わる光合成・蒸散量などの生物的変化を伴う。そして、その影響は気候にフィードバックされるため、さらに気候変動を増幅する危険性があり、気候-植生分布・物質循環の相互作用を包括的に取り扱う将来予測が急務である。

 気候変動の強度が増す過程において、生態系状態量(光合成(GPP)、正味生態系炭素吸収(NEP)、炭素蓄積)は、始めは元の状態に回復が可能である。しかし、ある点から別の状態に安定的に移行し、最終的に耐えきれなくなり崩壊(ゼロやマイナスになる)する(上図)と考えられる。つまり急激な気候変動に、適正な生理生態能力を持つ植生タイプへの移行が追いつかず、既存構成種の大量枯死によりCO2吸収力・バイオマスが極端に低下(生態系が崩壊)する危険性がある。そのため、現在の陸域生態系がどの程度に気候変動に対して緩和機能を維持可能であるかという生態系レジリエンス(適応能力)を把握する必要がある。しかし既存の生態系シミュレーションモデルは、物質循環のみの再現に特化していたため、気候変動に対する生理生態的な反応と植生分布変化の間のタイムラグを過小評価しており、将来の地球環境変動の正確な予測が大変困難である。

 そこで、本研究では、光に対する樹木の個体間競争をメカニスティックに表現することのできる動的全球植生モデル(下図(SEIB-DGVMウェブページより); SEIB-DGVM: Sato et al., 2007, Ecol. Model.)を利用し、将来の気候変動下におけるグローバルな植生分布・物質循環の変化の尤もな幅をシミュレーションによって調べる。さらに気候変動に対する陸域生態系レジリエンスを本研究で新たに提案する指標により定量することを目的とする。

これまで取り組んでいる課題

・台風撹乱による炭素吸収・森林動態の将来予測(Lan, Kato et al, 2019. Forest Ecol. Manage.)

・炭素飢餓がグローバルな炭素収支と植生分布に与える影響予測

・シベリア森林火災による炭素収支とエアロゾル放出量の変化の推定

3. 温故知新:人類の知の蓄積を、食料生産量の将来予測に活かせ!!

 作物統計データを利用した過去の収量の復元 

 世界人口の急増とともに食料増産の要求が年々高まっている。一方で、将来の気候変動は農業生産に大きな影響を与えると予測され(IPCC, 2014)、食糧危機を避けるために限られた経済的資源をどのように投資すべきかについて調べることは我が国の食料確保だけでなく安全保障の上でも非常に重要である。この100年間でCO2濃度は280ppmから400ppmまで増加し、地球の平均気温は0.7oC上昇した(IPCC, 2014)。つまりすでに気候変動は起こっており、それらと作物収量の関係が農業統計資料をもとに調べられて来た(Lobell et al, 2011, Scienceなど)が、用いられたFAOなどの資料は国家レベルのデータであり気候特性の地方における違いを考慮していない。さらに、解析は30-50年程度の近い過去を対象としており、平均気候変化の影響が顕著に出ているとは言いがたい。このように、限定的な解析しかされていないことは、詳細な統計資料がデジタル化されていないことや、同時進行している品種改良等の営農努力の影響を差し引くことが難しいことに起因すると考えられる。

 一方で、例えば我が国の最重要作物である水稲は、1993年の平成の米騒動と呼ばれる冷害による減収や、近年の気温上昇による高温障害で西日本を中心に収量が低下しており、気候変動への適応策の検討が急務である(河津ら, 2007,日作紀)。一方で日本の水稲や麦などの主要作物は、世界でも稀に古くは1880年代より各県の作物収量および肥料・農機具などの営農体系に関するデータが出版されている。つまりそれらのデータを利用し、気候変動を十分に検出できる長い時間変化と、品種・気候資源の違いを十分に検出できる大きな空間変化に渡って、気候変動が作物収量に及ぼした影響を調べることが重要である。そのためには、産業革命以前から始まる長期間および県別の作物収量と、遺伝的・環境的要因の関係を統計的に分析し、過去の我が国の作物生産における気候変動による影響を定量的に抽出する必要がある。

 そこで本研究では、過去約110年間(1901-2012)の我が国の主要作物(水稲・小麦・大麦・ダイズ・甘しょ・ばれいしょ)栽培についての県別の農業統計資料、農業試験場の栽培試験結果、作物収量モデルシミュレーションを組み合わせ収量と、遺伝的形質(標準収量・窒素反応性)・窒素施肥量・気候(気温・降水量・日射・CO2濃度)変動との関係を解明し、将来の気候変動による作物収量の減少をさけるための適応策検討のための重要な基礎資料を提供する。

これまで取り組んだ課題

・日本の県別の主要6作物の1883-2017年の収量への気候変化の影響の解明

・フランスの主要作物の100年間の収量変動の解明(Schauberger, Kato et al., 2018. Sci Rep.)

・稲刈帳による近世の水稲収量のデジタル化と気候変動との関係の解明

4. 面白いネタなら、まだまだあるよ!! 来たれ若人よ!!

 やる気が満々なあなたにおすすめな、本当は今すぐにでも始めたいトピック

・作物モデルMATCRO-Riceによる日本・アジアのコメ収量のデータ同化

・機械学習による世界の森林炭素吸収量の推定

・森林3次元放射伝達モデルFLiES-SIFによる、群落内光合成の空間分布のシミュレーション

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私たちの研究室では、陸域生態系モデリングを中心の技術にすえ、陸域生態系と環境との間の相互作用を調べて行きます。生態系モデル・観測・リモートセンシングは、技術的に充実してきており、生態系の物質循環を調べる研究は、新しい段階にさしかかっています。私たちの研究室で、現在進行中の研究を紹介します。

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